鉄の神といえば、金屋子神を祀る総本社もあり民俗学的にもその名を知られるのは、 上古よりの鉄産地である出雲の斐伊川沿いですが 東鉄(あずまがね)で知られるとおり、東国の鉄産地にも 金屋子神などの鉄に関する神々は祀られています。 その伝播には日本武尊(ヤマトタケルノミコト/古事記では倭建命)の東征に関連される推論など、 日本書紀や古事記(またはそれ以前)の時代に遡る学説もありますが、 詳らかではありません。 ただ、非常に古い時代にその信仰が広まったことは確かなようです。 中心に置かれるのは、「鉄の花・初花(たたら製鉄などの際に炉から初めて出された鉄滓)」や「天鉄」。 天鉄が本当の隕鉄である場合もあると耳にしたこともありますが、 自身は国内での祭祀形態では見たことがありません。 「鉄の花(初花)」を祀る古い形態は密やかに守られてきたようで、 東北の鉄産地の信仰を集める早池峯神社などでは、 鉄滓(てっさい:タタラの過程で出る鉄)を絵馬とした古い品々が奉納されています。 形状が花の様に見える事から鉄の花や初花と呼ばれ始めたと言われ、 これを各々のタタラ場では金屋子神に捧げたり、神体そのものと見られてきました。 鉄滓の形は、花以外に蛇として見立てられていたという伝承もあります。 隕鉄は名のそのままに、鉄成分の大きな隕石。 現代人の目から見ると「そんなものが原料になるのか」と思われますが 鉄に触れ始めた原初期の頃の人類には、鉄を得る方法はそれしかありませんでした。 古代エジプト人は、「鉄」は宇宙から来るものだと考えていたようで、 石器に比べたその威力は言うまでもなく、天から降りてくる不思議な材に 強い霊性を同じく感じていたようです。 実際、最古の鉄器文明とされるアナトリア地方(現トルコ北西部)で起こった 紀元前2300年のヒッタイト文明の残した鉄器(鉄剣)や 紀元前1800年、エジプトのツタンカーメン王墓から出た鉄剣、 中国における殷代安陽期(紀元前1300-1000年頃)の斧状武具の先端部など 実際に隕鉄で作られていることが判ってきています。 日本においても、隕鉄は天鉄、星鉄、隕星、天降鉄(あめふりてつ)などと呼び、 やはり霊的な力が備わった鉄と信じられました。 しかし、その多くは学術上の隕鉄ではなく、実際は鉱脈から自然に切り離され 稀に見つかる鉄鉱石(餅鉄)であり、岩手県などが良く知られます。 川に流され、表面が自然に研磨され川原や草原地に稀に残されるのですが きれいに磨かれた独特の光沢感ある重い鉄の石は、 砂鉄形態の産出地がほとんどである日本では、天から落ちてきたに違いないと考えられ、 天鉄と呼ばれるようになったようです。 古代日本において、青銅に比べ鉄は大きな威力を持つ利器材料。 自然と、製鉄や鍛冶の技術者は古代においては一種の畏敬の念を以て見られ、 またその所有者は霊性を帯びた為政者として君臨し、 鏡や剣などの鉄製品は神聖視され、信仰の対象となっていきます。 製鉄技術(鉄器文化)は日本の場合は他国と異なり、 青銅器とほぼ同時期と思われる時期に伝わったことが判ってきています。 その技術の飛躍的な進歩は、応神14年(283年)に天皇に仕えた弓月君を祖とした 秦氏などによってもたらされているようです(日本書紀)。 秦氏は百済系渡来氏族とする説や、秦王朝滅亡後に秦の遺民が朝鮮半島に逃れて建てた 秦韓(辰韓 /後の新羅あたり)の系統とする説がありますが、 その出自は未だ明らかではありません。 優れた技能者集団で、技術力・開発力・経済力・宗教文化によって 大和朝廷内で大きな権勢を得て、朝廷のさまざまな氏族と混淆しますが、 秦河勝以降は、不思議と政権の表舞台には立ちませんでした。 秦氏は製鉄を含む鉄器文化を広めるとともに(Ex./物部氏)、 今では日本古来の祭神として見られている全国の八幡神や稲荷神、天満宮、 白山信仰(各種論説ありますが白山信仰の点は未だ研究途上のデリケートな内容かと思います)など、 後世に至るまでの日本の宗教にも大きな影響を与えた氏族です。 上古の日本における鉄文化と宗教性の連鎖。 宇佐八幡宮(全国の八幡宮の総本社)という鉄などの利器に因む軍神でもあった八幡神が、 老いた鍛冶の翁となって示現する点や、 上古は八幡神が半島(秦氏)からの外来神の考察が論じられている点 (Ex./ 香春神社と辛国息長大姫大目命)なども 渡来系氏族の技術や文化性への尊敬とともに、鉄器や鍛冶・製鉄というものに ある種の強い「宗教性」が、上古には強く帯びていたことを指し示す点に思います。 中世以降、日本における鉄の神の実像としては 修験道とも関わり深い三宝荒神を以て祀られることが多く、 これは火の神からの転移と考えられ、 東北、近畿の一部、南九州などで、軸装画などに類例が見られます。 また、稲荷神を鍛冶神と見る地方(近畿や四国)もあり、 これもまた鍛冶技術にも優れた秦氏の畿内における氏神(Ex./ 『隋書』倭人伝)が 稲荷神であったことなど、由来は諸説あります。 その他の鍛冶神としては、建御名方神(たけみなかたのかみ)、金山彦や金山媛、 天目一箇神(あめのまひとつのかみ≒天津麻羅/鍛冶地によく聞かれる一つ目小僧に転移)、 一目連(天目一箇神と同一視されるが、本来は片目が潰れてしまった龍神)、 兵主神(ひょうずのかみ)、天日槍(あめのひぼこ)、妙見、 そして、白山信仰など、修験道を含む山岳信仰との関連が強い点が知られます。 火を使うという行為に反し、思いのほか水気に関する龍神や蛇神と因果のある内容が多く、 採鉱や鍛錬という行為が、山を切り崩し、水源を侵したことへの畏れを窺わせます。 また秦氏の古い祭神との因果も見られるケースが多いように感じます。 長い年月の経過。 その諸神像は習合したり、合祀されたり、その元の名は忘れられたり 神仏習合した中で極めて複雑に、姿や形も変遷と発展をしますが、 諸神像よりも、鉄そのものを中心に祀り、霊性を観るというシンプルな祭祀が やはり最も古い信仰の形態ではないかと、自身は思います。 ※秦氏/ 優れた「鍛冶」の技術、芸能・巫覡(ふげき)の技を持ち、古代日本の産業と 信仰(現代にも至る)に深く関与した百済、または辰韓(後の新羅のあたりとなる朝 鮮半島南部)系渡来氏族とされ、網野善彦は彼らを「農業から排除されたのではな く、農業の必要のない人たち」と述べている。 彼らが伝え、また信仰した神が八幡・稲荷・白山信仰であり、日本の文化・信仰に後 の世まで深く広く関与していった。 ※物部氏/ 秦氏より古く、神武天皇以前に天磐船により大和入りをしたとされる氏族 で、秦氏同様に技術集団を纏め、3世紀半ば大和朝廷発生時から祭祀を通じて政 権に密接に繋がっていたとされる。 天孫族系(日本書紀)であることから、秦氏同様に古い渡来系氏族という解釈もある が、その後の天武朝における「古事記」「日本書記」編纂時(藤原氏編纂)に、葛城氏 と共に詳細をほぼ書かれる事がなかった大和の有力豪族で、未だ不明点が多い。 ※一つ目/ 天目一箇神(あめのまひとつのかみ)も隻眼だが、製鉄地には古くから一 つ目小僧など一つ目に関する伝承が多い。鍛冶が鉄の色でその温度をみるのに片 目をつぶっていたことから、または片目を失明する鍛冶の職業病があったことからと されているが、山神信仰(片目片足)などとの因果関係も類推される(Ex./柳田國男)。 ※写真出典/1. ©公益社団法人 島根県観光連盟(金屋子神社 本社/島根県易安来市) /2. ©高知県立埋蔵文化財センター /4. ©東京国立博物館(三宝荒神像/鎌倉時代) 百芍丹 #
by h_s_t
| 2015-03-26 18:59
| 品々のこと
首記の両日、告知できずお休みとなりました。 ほぼ寝たきりとなってしまい、またネット環境に在らず 充分なご案内も出来ず、足をお運びいただいたであろうお客様には 大変なご迷惑をおかけいたしました。 伏してお詫び申し上げます。 過労気味ながら、本日より外に出ております。 今後このようなことの無いよう善処してまいりたい旨と、 重ねてのお詫びを申し上げる次第です。 百芍丹 #
by h_s_t
| 2015-03-23 21:27
| 営業・休業のお知らせ
啓蟄を越え 七十二候、第九候を迎えました 「菜虫化蝶」 本朝で言い換えると、 柔らかな白そのものを包み語るような 「紋白蝶、舞いはじめる」 白光が地に差し 朝な夕な、さまざまな白の明るさが 身のまわりに爾つるような 候節に思います 蝶々の 翅立てしまま 眠りをり ― 「日めくり桃兎」 より 李朝壺 御売約 個人蔵 ※七十二候(しちじゅうにこう)/古代中国で考案された季節を表す期間表現のひとつで、 二十四節気をさらに約5日ずつの3つに分けた期間のこと。漢王朝期に再編。 七十二、それぞれの名称は、気象の動きや動植物の変化を知らせる短文になっている。 ※啓蟄(=驚蟄/けいちつ)/大地が温まり、冬眠していた虫が穴から出てくる頃を指す。 ※句引用 / himekuri-touto© http://ameblo.jp/himekuri-touto/ Dear himekuri-touto, Thank you for your sweetness . 百芍丹 #
by h_s_t
| 2015-03-17 22:58
| 品々のこと
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hyakushakutan
2016年8月より、烏丸今出川の新店舗へ移転再開いたしました
毎週 土曜・日曜 と25日 13時-18時にて営業です hst_kyoto.4 All rights reserved. Reprint is prohibited. 器物の撮影写真、文章等は百芍丹に帰属します。無断での使用、複製、転載、部分転用など、恐れ入りますがご遠慮ください。 カテゴリ
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