杓文字(しゃもじ)

名の由来も、そのルーツもあまり知られていませんが、
大地のめぐみをよそうのにあまりにも似合う、安心感あるおおらかなこの形が僕は好きです。


水田農耕の草創期資料として教科書にも出てくる登呂遺跡(弥生時代)からも
当時は何と呼ばれたか不明ながら、しゃもじに似た箆(へら)がいくつか出土しています。





当店にも少し前に楽しい「しゃもじ」がやってきました。
製作年代はすでに昭和期に入っているのですが、
縞黒檀でつくられた江戸手木工の上級品です。
ひとつひとつ厚さも形も異なり、丹念に蜜蝋で仕上げられています。


もはやこうした品をつくる工房も、職人も、消費者の記憶も途絶えて
しまったかと思う昨今です。

唐木という素材から考えると、柳の提唱した「民藝」という分野からは
確かにかなり逸脱するものの、「民藝」ではカバーしきれない、
魅力ある町人文化という、庶民の一側面を支えた華美とは異なる手仕事も実在し、
また、それがほとんど脚光を浴びず消えゆく気がしてなりません。

茶事や骨董・古玩、民藝、デザイン界、etc…。
それぞれに拾われることなくとも
魅力的なものは「多くの言葉いらず」で魅力的に光っています。







しゃもじは、その元の名を何としたのか、
平安期以前のことはよくわかっていません。


語源は「杓子」(しゃくし)や「杓(勺)」(しゃく)の略化接頭「しゃ」に、
付加意の接尾辞「文字」(もじ・もんじ)が付いたものらしく、
このように最後に「もじ」を付けて婉曲的に表現する文字詞(もじことば)は
現代にはない非常に古い特殊な日本語で、女房詞(にょうぼうことば)というものです。


女房について少し触れると、女房は平安期-室町期頃を中心に
宮中、貴族邸宅、門跡寺院などで側仕えをする女性たちのことで、
時代劇でみる江戸時代の「腰元」とは異なり雑事は行いません。
貴族階級出身者であることが多く、教師や秘書官的役割などを有する才女たちです。

雑事を行う女官と後年は同一視されることが多いのですが、身分や教養は格段の差があり
彼女たちが会話をするときに、婉曲的に麗句化する際に使用した言葉が女房詞(女房言葉)です。




枕草紙で知られる清少納言も、一条天皇中宮に仕えた女房のひとりで


「ないがしろなるもの。 女官どもの髪上げ姿。」

               -  枕草子 【二百三十八】 清少納言



とあるように、労働然とした女官の魅力を伝えると同時に、
自分の身分との差異を明らかにしています。
※ここでいう「ないがしろなるもの」は、「(無造作に)少し乱れて
心惹かれるもの」という意味かと思います。





現在、何とか耳にする女房言葉はひょっとすると、
時代劇にたまにでてくる「そもじ(=あなた)」や、
もじもじするの「もじもじ(もぢもぢ)」(異説あります)
加えて、この「しゃもじ」という言葉ぐらいなのかもしれません。




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 江戸手 縞黒檀杓文字<昭和前期> 御売約 個人蔵(全点)









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# by h_s_t | 2013-09-11 16:26 | 品々のこと

台風一過 九月

立春から数えて二百十日の9月1日から二百二十日に当たる9月11日。
古くから最も台風が多い時期。
今年の季節は肝心なところで狂わず、そのとおりに昨日の激しい野分けに。

野分は秋の優しい涼風にも句や歌では使われるものの、その文字のとおり
平安の昔より台風の古語として、やはり二百十日のような強い風雨が
あまりにも良くその勢いを表しています。


九月

本来の旧暦和名では「長月」という名前があるのは広く知られるとおりで、
新しい類推では「菜刈月(ながりつき)」の変異という話もありますが、
「夜長月(よながつき)」の略であるとするのが現在のところは最も有力のようです。

「菜刈月」という新しい類推や、
「稲刈月((い)ねかりづき)」、「稲熟月・稲上月(いねあがりづき)」などの
古くから『その語源』とされていた類名も、
すべては自然の中に身をゆだね、収穫というその恩恵への感謝と
比例する畏怖を保ち続けた、日本人らしい健やかな思いにあふれているように感じます。

畔は一様に曼珠沙華に彩られ、近畿という地に根差す自分にとっては
盆の送り火に応えた、たくさんの報せの火のように思うような時があります。
子供のころより「触ってはいけない毒の花」と言われ、
その不可侵をもって屹立する赤い火のような花は、
一層に涅槃の安らぎをこちらの側は温かく知るのみというように思えてなりません。


 薄づける 彼岸秋陽に 狐ばな 赤々そまれり ここはどこのみち

                                  ― 木下利玄



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送り火も、曼珠沙華という火も、祠の狐も、子供のころにはひどく怖かった。
そして、手を合わす日常とは異なる父母や大人たちの表情に
そわそわしたり、自分がどうしてよいのか判らぬ思いに抓まされたことを覚えています。

その怖かったものの持つ静けさやエネルギーは、大人になった今眺めると
思い出せない大事な何かが近づいては遠ざかる、稲穂の波のような、
子供のころの自分からの報せであるかのように大事に思えます。






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# by h_s_t | 2013-09-05 16:23 | 日々のこと

骨董 百芍丹

冠のままに、古陶磁などの骨董主体の店舗となります。


お店からのお知らせや、お役に立てないかもしれない話を進めて参ります。
今後ともどうぞ宜しくお願い申し上げます。







西ノ京円町店舗での営業は2015年を持ちまして終了いたしました。

2016年8月27日(土)より、以下の新店舗に移転させていただいております。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。








【 骨董 百芍丹 <ひゃくしゃくたん> 】

 ・新店舗  〒602-0051 京都市上京区御三軒町37 (上立売 小川上る)
       → google map

 ・電話   現在施設準備中です

 ・営業時間 土曜日・日曜日 13:00-19:00
        及び25日(天神さん) 13:00-19:00
       (本年より毎月25日も営業させていただきます)

 ・交通   市営地下鉄 今出川駅 徒歩12分(JR 京都駅、阪急烏丸駅よりお越しの際)
       市バス12系統 堀川今出川バス停 徒歩10分(四条河原町、四条高倉 等よりお越しの際)

       ※12系統(金閣寺立命館大学行)は本数多く、四条河原町のバス停は
        高島屋北側の四条通り沿いです。51・59系統 でも堀川今出川経由となります。
       ※お車でお越しの際は駐車場ございません。当店北進10mのコインパーキング等
        ご利用くださいませ。店頭、クラシックカーの出入り多く駐車いただけません。
       ※「御三軒湯」の上手2件目となります。

 ・近隣   御三軒湯、報恩寺、表千家不審菴、裏千家今日菴、白峯神社、本阿弥光悦邸跡









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百芍丹

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# by h_s_t | 2013-09-04 18:31 | 店舗ご案内