自分を映すガラスたち

ベルエポック期のパリの賑わいが聞こえてきそうな女性用の灰皿たちは
20世紀初頭期のバカラ製です。



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女性の喫煙が少しくだけた新しい流行のスタイルとして、
ヨーロッパでも公けに認められるようになったのは1900年代の初頭期頃。

女性たちはガラスビーズで飾られたバッグと、ティファニーなどの
コスチュームジュエリーという新しく台頭したジュエリーを身につけ、
長いシガレットホルダーの煙草を優雅にくゆらし
まばゆいばかりの社交界に臨みました。

そして右手にこれらの輝くような灰皿。


小さな品ながら、さまざまな意匠が試され、
理知的なギリシャ神話に端を発するもの、
活動的な狩のシーン、少女的な愛犬と遊ぶシーン、etc…。

おそらくは持ち主の趣向や男性に求めるものを、そうした場でわかりやすくするための
一種の「サイン」として、多数の意匠が残ったのかもしれません。


  エレガントでありながら行儀を悪くする。
  つまり「くずす」には、
  まず第一に礼儀正しい基礎がなければならない。
              ― Gabrielle Bonheur Chanel (1883-1971)



フルクリスタルの品で、見た目以上の心地よい重量感があります。



 1910年代頃 / Antique Baccarat – Ash Tray




 百芍丹

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# by h_s_t | 2013-09-30 17:24 | 品々のこと

夜長月

まだまだ重量物や家具の修理はできないものの、
月の初旬に壊した腰の具合も少し良くなりつつあります。
ゆっくりとしか品々の補充ができずご迷惑をかけます。


季節は彼岸も過ぎ、日中の日差しは強いものの「暑さ寒さも彼岸まで」で、
朝晩はそのとおりにずいぶんと過ごしやすくなりました。
秋分の日を境に、その前後を彼岸(「彼岸入」「中日」「彼岸明」)とし
春分同様に昼と夜のバランスに均衡がとられる時分で
人間を含め生きるものすべてが、心落ち着く頃のようです。




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昨晩はMさんと夜長の酒を、近くの酒処で楽しみました。


ちょうど平盃見立てで楽しめる伊万里の豆皿がやってきており
あまりに楽しい画なので水通ししてもらい、
その酒処で使わせていただきました。


使いだすと思った以上に肩の力が抜ける面白い品で、
画のように秋の夜長をふわふわと飛ぶように、いろんな話題に逍遥するも、
それがまた涼しい夜に似合う楽しい時間でした。

御付き合い下さりこの場を借りて感謝申し上げます。




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鶴に乗る仙人は、録の中では漢代に遡る非常に古い仙人で
王子喬(おうしきょう)かと思います。

鶴に乗り、はるばる日本にやってきたら
何やら鶴が鷺のようになってしまっており
これもまた伊万里ならではといった感じで微笑ましい小品です。







 伊万里染付 仙人図豆皿 <幕末期頃> 御売約 個人蔵





百芍丹

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# by h_s_t | 2013-09-25 16:46 | 日々のこと

吉野

伸びやかな筆致が活きていた時代の
力強く美しい絵吉野の小さな木皿です。



描かれた花は清浄を表す芙蓉(ふよう)。

太閤秀吉が晩年の吉野の大茶会で、
時の茶人たちにその意匠を考案させたのが(あるいは見出させたのか)
初出とも言われています。




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時代はその後、大きな動乱を経て徳川の時代に移り、
滅亡した豊臣氏の残した大きなモニュメントである大坂城※も
新時代への移行を示すプロパガンダを大いにこめ、破壊し再構築され、
千利休に続く、豊臣政権からの宗匠であった古田織部も切腹を命じられ
前時代の茶事や文化に区切りがつけられます。




そんな中でも、江戸はいざしらず京都・大坂の上方では
かつての美意識を守るかのごとく、吉野の芙蓉絵は細々とその命脈を
引き継ぎ続けました。

他地域に比べ、畿内で古手の吉野が見つかることが多いのは
太閤時代を体験した畿内文化の「かつての、町人も楽しめた文化世界」への
一種のオマージュやレミニッセンスと同時に
徳川政権下の美文化への乖離があったのかとも思います。





その後、徳川の時代も終わり、明治という新時代を過ぎ、幾数年。
世相が近代化に至る中、吉野は急速にその伸びやかな線に力を失い、
意匠に託された闊達な野の意味を失っていきます。






 吉野 木皿<江戸時代後期頃> 御売約 個人蔵





※旧称地名により現在の大阪とせず記載しました。




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# by h_s_t | 2013-09-24 16:44 | 品々のこと